-内外で賞賛される宇田川芸術-

安永 幸一
(美術評論家・元福岡アジア美術館館長)

 2014年の九州産業大学芸術学部退官記念展以来だから、6年ぶりの個展である。
 その退官記念展に出品されて、作者の天分を否応なく認めさせられた15歳の時の水彩画『ぶっくれ橋』(こわれた木の橋)に始まる木や木の温もり、あるいは天井や板塀にあらわれる抽象的な木目など、当時は身近にあった木の模様を、西洋の古い画法「テンペラ画法」を導入することで、全く新たな造形を創出した宇田川宣人氏は他の追随を許さぬ存在となっている。

 テンペラと油彩をミックスさせたと本人が言う「木目の下地」(本人は「下地」とよぶが、実際はこれが「本地」?)には隠し味のように古典や和歌を書いた筆文字がチラチラと見え隠れし、全体に押さえた色調ともあいまって、日本文化の”粋”であるとか”伝統”であるとかがそこはかとなく漂う。それが外国の識者や美術ファンの琴線に触れるのであろう。2006年のニューヨークでの個展の時、アメリカの著名な美術評論家エドワード・ルーシー=スミス氏に日本美の”粋”として高く評価された理由もそのあたりにある。

 これに連なる私の体験で言えば、2014年9月に中国・山東省青島で開催された「第1回青島国際ビエンナーレ」に招待された時の忘れられない思い出がある。推薦委員だった私は、この時、宇田川作品を強く推していた。開会式に出席すると、並み居る出席者の前で、その宇田川作品が、あたかもこのビエンナーレを代表する作品であるかの如く、その映像がいきなり大きく映し出された。展覧会場に行くと、最も目立つ場所に堂々と展示され、黒山の人だかり、、、、。この青島側の特別扱いぶりには驚きっ放しであったが、これも、日本の伝統を感じさせる彼の作品の特異性を高く評価したものであったに違いない。

 いづれにしても、これからも宇田川作品は日本の内外でますます高く評価され続けることだろう。
 また、宇田川氏が、日本や欧米だけでなく、中国を始めアジアでも高く評価され、尊敬されているのは、「アジア美術家連盟」での優れたリーダー・ シップや高いマネジメント能力のみならず、その作品の他にない独自性にあることは言うまでもない。今後のますますの活躍を期待するばかりである。

(コロナ感染症による緊急事態宣言のため、展覧会は自粛)