コロナと闘いつつ、連帯を確認
 - アジア国際美術展を終えて

宇田川 宣人

 第29回アジア国際美術展が8月7日から29日まで福岡県筑後市の九州芸文館で開催されました。1985年からアジア諸国の主要美術館を巡回し、日本では「国民文化祭ふくおか2004」以来17年ぶり、通算6回目の開催になりました。今回は、日本、マレーシア、シンガポール、インドネシア、韓国、中国、台湾、香港、モンゴルの9カ国・地域の現代美術家が参加し、九州芸文館リニューアルオープン記念特別展として同館と福岡県、アジア美術家連盟からなる実行委員会が主催者となり、大学や企業、文化芸術財団等から協賛や助成を賜り、さらに、九州文化協会など21の文化や報道関係機関と地域団体から後援を頂き、内外から注目を集めた「ウィズコロナ時代の国際美術の祭典」になったと思います。出品作家選考委員長を安永幸一先生、企画委員会委員を光行洋子、塚本洋守先生等、私は実行委員会委員長を務めました。

 九州芸文館は新国立競技場設計者の隈研吾氏がデザインした福岡県立のアジアとの文化芸術交流拠点であります。また、偶然にも東京2020オリンピック・パラリンピックが1年間延期された関係で、この国際展が同時期開催になり、オリパラの理念である「多様性と調和」と、昨年度に成立した福岡県文化芸術振興基本計画の文化芸術振興審議会における「多様性と包摂」の方向性をこの国際展の内容に反映することになりました。結果的に、海外委員会から推薦された113名の美術家と美術館学芸員、文化部記者、美術団体代表者などにより構成された出品作家選考委員会において推薦され、選考された、我が国の103名、合わせて216名の美術家と共に、筑後地域の多くの小、中、高校生や特別支援学校の児童生徒、障害者施設の皆様にも出品頂きました。

 福岡文化連盟会員では、私の知る限りにおいても、今林久、是澤清一、松永楠生、弥冨節子、佐々木俊介、古本元治、武田義明、松尾英子、城戸久美子、井上一光、川野正、三好るり、黄禧晶、姚明、松永瑠美、佐伯奈美、峰松由布子、中原未央、木森圭一郎の先生方(順不同)が、絵画や彫刻、立体造形、インスタレーションなどの清新で豊かな現代造形表現作品を出品して会場を盛り上げていました。

 開催テーマはコロナ感染症が日本で初めて発症した2020年の1月から8か月が過ぎた9月1日の第1回実行委員会で「ウィズコロナ時代のアジアの美術」に正式に決まりました。その時期は「Go Toトラベル」で街も酒場も活気を取り戻し始めた時で、第2波も下降線をたどり、楽観的ムードが漂い、その後のワクチン接種の効果も期待されていましたので、1年後のアジア国際美術展開催日に向かって、海外との往来が制限されるような深刻な状況が到来するとは全く予想していませんでした。一方、アジア諸国では、日本の最初の緊急事態宣言時のように、国によっては芸術文化は不要不急の催しとみなされ、芸術文化活動が制限されている状況が伝わっていましたので、この国際展のアートフォーラムにおいて、アジアにおける文化芸術活動の状況を正確に把握するとともに、コロナ禍における理想的な芸術文化活動の方策や在り方を追求し、芸術文化は人々が心に潤いを持ち、豊かに生きる上で欠くことのできない、重要な活動であることの理解を改めて共有し、アジア社会にも広く浸透させたいと考えていました。また、各国のコロナ禍の芸術文化活動の実績報告をもとに、客観的データを根拠にしたコロナ感染防止対策ガイドラインを行政に提案して、アジアのアーティストが罪悪感や後ろめたさを持たずに芸術文化活動に専念できる環境を整えることが喫緊の課題であると考えました。しかし、日本ではその後も爆発的に感染が拡大するばかりで、この国際展の運営は、多くの困難を乗り越えていかねばなりませんでした。

 思えば、アジア国際美術展の発足当初は、まだ、戦後を引きずっていて、国際関係も複雑でデリケートでしたし、経済格差もあり、いずれの国も大変緊張の強いられる展覧会運営を余儀なくさせられていました。毎回、一筋縄ではいかず、泥んこになりながら続けてきましたが、国際展で毎年のように顔を突き合わせているうちに、いつのまにか連帯感が生まれたような気がします。今では、香港やマカオの返還時の美術家の苦悩と希望、フィリピン展の通関トラブルの困惑と展示できなかった国々の怒りの爆発。リーマンショック直後のクアラルンプール展の苦渋の運営、バンコック展の大洪水時の延期、平和を願った金門島展の憂慮、準備段階での混乱によるベトナム展の中止、文化村プロジェクト中断による中国の展覧会辞退など、様々なハプニングにより、困難を背負って、懊悩していた頃のことが懐かしく思い出されます。今回も、また、やっぱり。という状況で、津留誠一館長はじめ九州芸文館や県庁のスタッフの皆様にも、多大なご迷惑と、ご心労をおかけしてしまいました。

 実際に8月の展覧会開催中は、蔓延防止等重点措置に始まり、福岡コロナ特別警報、新型コロナ感染症緊急事態宣言措置が続きましたが、厳格にガイドラインに沿った感染防止対策を徹底的に実施した結果、豪雨による3日間の想定外の臨時休館を除いて、予定期日を全うして開催することが出来ました。また、開会式や島谷弘幸・九州国立博物館館長の講演会などの全ての行事について出席者を制限し、縮小する形で開催し、展覧会もソーシャルディスタンスに十分注意を払いながら鑑賞を楽しんでいただけるように努めました。更に、書面によるアジア美術家連盟代表者会議を行い、2023年にモンゴル国立現代美術館主催により第30回アジア国際美術展開催を決定することが出来ました。次期開催国へのバトンタッチがスムーズに果たせたことで、ホスト国の役割を完了することができ安堵しています。

 ただ、海外の美術家が1名しか来日できずに、全ての国際交流行事を中止せざるを得ませんでした。多数の海外美術家と我が国の美術家や地域の皆様との国際交流行事により、国際親善に寄与したいと考えていましたので非常に残念です。しかし、海外委員会は来日が不可能と分かる状況にもかかわらず、無理を押して、自費で作品を出品して頂いたのは、各国委員会のアジア国際美術展継続の意志の強さを表すものだと思います。アジア美術家連盟のアーティストの心の絆が更に固く結ばれたと感じています。

 今後はウィズコロナ時代のアジア諸国の美術活動状況報告集をまとめて、多難であった第29回アジア国際美術展の全ての行事を閉じたいと思います。

(第6部会理事・福岡県文化団体連合会理事長・アジア美術家連盟日本委員会代表)
第29回アジア国際美術展のwebサイトはhttps://www.kyushu-geibun.jp/2021aiae/です。